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対米意識改めて基地問題解決を

2009年11月19日付 中外日報(社説)

岩波現代文庫『拝啓マッカーサー元帥様』(袖井林二郎著)によると、戦後日本を占領した連合国軍総司令官のマッカーサー元帥に五十万通もの日本人の手紙が届いたという。多くは元帥へのおもねりや嘆願で、宗教教団トップの手紙もあった。膨大な手紙に見る特異な心性は過去のことと片付けられない。昨今、声高に日米同盟の危機を語る思潮とどこか通底するものがあるように思う。

同書は「占領下の日本人の手紙」の副題の通り米国のマッカーサー記念館などに保存される、後の首相ら政治家から小学生までの手紙を丹念に読み込んだ著作だ。戦後日米関係史を専門とする著者は「世界史に数多い占領の歴史で外来の支配者にこれほど熱烈に手紙を寄せた民族はない」という。「社会現象」ともいえる問題だが、当時の時代状況から軽々な批評は慎みたい。だが、次のような手紙には違和感を持たざるを得ない。

例えば「日本全国民及び子孫のため米国の支配を受ける方が将来の日本の幸福と存じます」「貴国と合併し貴国の命のままに動くことに於いてのみ日本は救われる」などだ。

被爆地長崎市の市民の一人は日米双方の戦死者のため平和記念塔を建て、日本に「神の使いのごとく深い慈悲と同情の手を差しのべられた」元帥の銅像をその前に置きたいと訴えた。また、ある宗教教団トップの手紙は「花祭り」に元帥の飛行機を使って「空より花を撒き散らしたいと存じ」と"平和飛行"の許可を嘆願した。

戦時中、多くの教団が軍部の戦争遂行に協力したというが、この教団は尼僧による竹槍部隊を編成したとも聞く。嘆願は丁重に断わられたようだが、元帥の副官のメモに「宗派内に派閥争いがあり、総司令官の協力を得て自分の立場を強める狙い」と記され、元帥の「OK(分かった)」というサインがあったそうだ。

戦時中「鬼畜米英」と教え込まれた国民の多くは連合国による日本の民主化政策に驚き、歓迎した。そして少なくない人々が頂点に君臨する元帥に身をすり寄せていったことを手紙の山は物語る。

しかし、敗戦の痛手に深く向き合わないままの変わり身の早さは、半面で近隣諸国に対する加害の歴史をも後景に押しやってしまった。著者のその指摘は今に通じる大事なポイントだろう。数年前に読んだ同書を先日、読み返してあらためてそう思った。

「対米依存症候群」とでもいうべきか。筆者は沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題をめぐる最近のメディアの論調にも、その根のところで戦後の一時期に見せた心性につながるものを感じてしまう。ある全国紙はオバマ大統領の来日に合わせた社説で「日米同盟はアジア太平洋地域の安定と繁栄の基盤。日本は米国以上に共通の利益を享受してきた」と主張し、普天間飛行場移設を含む米軍再編の日米合意を早く実施するよう迫った。普天間問題での政府の迷走は「日米同盟の危機」と決め付けた上でのことだ。論調に多少の違いはあれ、米国が強硬に求める合意の早期実施を「仕方ない」と認めるニュアンスは他紙も共通する。

基地の被害に日々さらされている沖縄と本土メディアとの「温度差」を以前に本欄で書いた。普天間移設案は、住民の反対で十数年間計画が進まない。その事実にもう少し丁寧なまなざしを向けるべきではないのか。ある新聞に掲載された「皆さんはまだ基地を沖縄に押し付けて傍観者でいるのか」との読者投稿に心が痛む。

日米合意の履行を熱心に説くメディアの中には、近隣諸国との友好促進には消極的と見えるものもある。だが、オバマ政権が中国との協調路線にかじを切り歴史は大きく転換している。もとより日米同盟は将来にわたって重要だが、そろそろ対米意識を改める時期では、との意見も聞く。その昔、聖徳太子が時の大国隋への書で気概を示し、入唐の僧が堂々たる態度で受法した故事に倣いたいものである。