ニュース画像
開基の妙達上人像を開眼する五十嵐住職
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

「貧困の連鎖」を早く断ち切ろう

2009年11月7日付 中外日報(社説)

日本は、経済協力開発機構(OECD)加盟三十ヵ国の中では貧困率の高さで最悪クラスの国に挙げられるようだ。厚生労働省が先日公表した平成十八年時点の「相対的貧困率」一五・七%という数字を国際比較すると、そういうことになる。従来、格差社会という側面に関心が向きがちだったが、実態はさらに進んで「貧困大国」といわれるような状況だ。貧困は子どもたちの将来の芽を摘んでしまいかねない。それを放置してきた社会の倫理性が問われていると思う。

OECDの「相対的貧困率」は、子どもを含む個々の国民の所得を順に並べてその真ん中の額を中央値とし、その半分に満たない人の割合を示すという。平成十八年の日本の中央値は二百二十八万円。従って年収百十四万円に満たない貧困レベルの国民が六人強に一人いるということだ。世界銀行の定義である「絶対的貧困率」(一日の所得が一米ドル未満の国民の割合)とは概念が異なる。

OECDの直近の報告は厚労省より三年前の平成十五年で、日本の「相対的貧困率」は一四・九%、加盟国中で日本より高いのはメキシコ(一八・四%)とトルコ(一七・五%)、米国(一七・一%)だけだった。厚労省が今回公表した数字は日本政府として初めて公式に算定したもので、それに見合うOECDの各国データはない。ただ、日本は十五年より〇・八ポイント悪化している。

厚労省の公表資料にはないが、筆者が以前から気になっているのが就業している一人親家庭の「相対的貧困率」の高さで、OECDの十五年のデータによると五八%にも上る。これはメキシコ(三四%)、トルコ(三二%)などと比較しても断然高い。一人親家庭のほとんどは母子家庭(百二十二万世帯余)。日本の母子家庭は、国際的に最も貧しい生活を強いられているということだ。

母子家庭は離婚やシングルマザーの増加などで増え続けているが、所得が低い理由は非正規就業など就労条件の悪化や父親からの養育費仕送りがない、などからだ。日本では離婚時に養育費の取り決めをしないことが多く、養育費を受け取っている母子家庭は約五分の一という報告もある。五割以上が受け取っているといわれる米国などと比べ極端に低い。

筆者は以前、ある新聞社の社会事業団で母子家庭の子どもたちを支援する事業にかかわった。「毎日の食材を買うのに十円単位の節約をしている。ギリギリの生活で将来に希望が持てない」という母親の悲しみを何度か聴かされた。

「貧困の連鎖」あるいは「格差世襲」といわれることがある。貧しい家庭に育つ子どもたちは充分な教育を受けることができず、健康にも影響する。その子どもたちが成人しても高収入は期待できないという悪循環だ。子ども期の貧困はいつまでたっても不利な立場に追い込まれる可能性が高い社会だが、違う視点に立てば、そうした子どもたちの能力を埋もれさせてしまってもいるわけだ。

構造改革を進めた小泉政権当時のある大臣は「社会的に解決しないといけない大問題としての貧困は、この国にはない」と言い切っていた。生活保護受給の一人親世帯へのいわゆる母子加算が今年四月全廃されたのは、そんな生活無視の思想の表われの一つだった。生活保護を受けていない世帯との不均衡などを理由に挙げていたが、それは逆の方向で改善すべきことだ。

母子加算は政権交代に伴い復活するが、それで問題が解決するとはとても思えない。ネット上の書き込みに、うわべだけの感情論で母子加算復活を批判する声が多く寄せられているように、社会は弱者に対する思いやりを見失っている。慈悲の心に根差した新たな社会的倫理醸成の必要性を痛感する。仏教界をはじめ宗教の役割は大きい。