ニュース画像
「誠」の隊旗を掲げた五重塔院で営まれた法要
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

少欲知足を促すオバマ氏新路線

2009年2月19日付 中外日報(社説)

世界大不況の火元・米国で、就任したばかりのオバマ大統領は、景気回復に躍起となっている。そのための予算は七千八百億ドル、日本円換算で約七十二兆円にも上る。

二月九日、就任後初の記者会見でオバマ氏は「日本に学べ」と強調した。日本を模範にせよ、ではなく、「日本の失敗に学べ」ということだ。バブル崩壊後の一九九〇年代、日本の国会は政争に明け暮れ、有効な経済政策を打ち出すことができず「空白の十年間」を空費した。その轍を踏むなとの戒めである。

オバマ氏は選挙中の遊説で「グリーン・ニューディール」を提唱した。地球環境を守るために(1)今後十年間に約十五兆円をクリーンエネルギー事業に投資し、五百万人の雇用を生む(2)二〇一五年までに百万台のハイブリッド車を走らせる(3)風力や太陽光、次世代のバイオ燃料の利用を推進する――などである。

しかし当面はきょう、あすの雇用確保に取り組まなければならない。その米国情勢を見つめながら「オバマさんの基本姿勢は変わらないでしょう」と言うのは京都府大山崎町在住の仏教学研究者、坂爪逸子さんである。坂爪さんは主婦だが京大や佛教大学の大学院に学び、このほど東京・青弓社から『中流の力・すべては〈立っち〉に始まった』を出版した。同書で坂爪さんは「釈尊に始まった少欲知足の精神が世を救う」と強調、注目されている。

坂爪さんの提唱が、なぜオバマ大統領に結びつくのか。まず坂爪さんは、人類が二本足で立ち上がり、歩行を始めた段階を、赤ん坊になぞらえて〈立っち〉と呼ぶ。直立したことで人類は二本の手で道具を作り、火を使えるようになった。その一方で人類は「自我」を確立し、精神的にも〈立っち〉していく。

身のほどをわきまえた、健全な〈立っち〉のうちはよかったが、歴史とともに人間の欲望は限りなく広がり、争ってでも富を入手しようとする、過剰な〈立っち〉へと進む。大量消費文明でエントロピー(物質の無秩序さ)の増大は加速、CO2排出量の増加と地球温暖化を招いた。

先進諸国がCO2排出量削減に取り組む中で、米国はこれまで、地球環境の保護に熱心でなかった。憂慮したオバマ氏が示したマニフェストが「グリーン・ニューディール」だった。元朝日新聞記者で「日本インターネット新聞」代表の竹内謙氏は、大きな家や高級車を追求してきた"アメリカンドリーム"に「足るを知る」東洋思想の受け入れを迫ったもの、と見る。

釈尊は「十二因縁」により、過剰な〈立っち〉を否定し、少欲知足の尊さを示した。その思想は無量寿経を通じて馬鳴、真諦から法然へ伝えられた、と坂爪さんは記す。日本の江戸時代は、人口の爆発も消費エネルギーの増大もなく、少欲知足が貫かれた。

しかし明治維新を機に、西欧の立身出世主義が持ち込まれ、過剰な〈立っち〉が主流となった。その間にあって少欲知足路線を支えたのが中流階級だった。一億総中流といわれた時代もある。しかし、格差拡大路線の中で、中流の存在は揺らぎを見せている。

先日の朝日新聞のコラムに経済学者・中谷巌氏の著書『資本主義はなぜ自壊したのか』が紹介されていた。この本はブータンのGNH(国民総幸福)政策を高く評価しているという。国王提唱のこの思想は、各国がGNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)など、金銭的な経済成果を重視する中で、開発より自然保護を目指しつつ、金銭より幸福を追求している。「少欲知足」理念であり、仏教国らしい健全な〈立っち〉志向である。

だが、ヒマラヤの国にも時代の風は吹く。若手官僚の間には、豊かさ重視の空気が漂い始めたとか。過剰な〈立っち〉の轍を踏まぬことを……。