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「百年に一度」の不況に思うこと

2009年2月17日付 中外日報(社説)

百年に一度の大不況だそうである。大企業の製品が売れず、従業員の解雇が広がった。下請け中小企業の倒産が進む。

小学館発行『本の窓』誌の特集記事によると、以前の不況はじっと耐えていれば景気が回復する"循環型不況"だった。だがバブル崩壊以後は、これまで体験したことのない"構造型不況"で、回復の見通しが全く立たないという。

同誌に寄稿した作家の小関智弘氏は、旋盤工のかたわら執筆活動をしてきた異色の人だが、バブルを境に親会社と下請け企業の間柄は、親子関係から愛人関係に変わったと記す。親子のきずなは断ち切ることができないが、愛人は魅力がなくなったら「ハイ、さよなら」なのだそうだ。

東日本最大の技術の町、東京都大田区には、四十五年前には約九千の中小企業が存在したが、現在は半分以下になっている。小泉内閣時代に、体力のない企業は倒産しても仕方がない、という政策がとられた。政治家には、中小企業とは親会社の注文通りに部品を作るところ、という認識しかなかった。実際には、大企業が町工場の技術に支えられていたという実態が理解されていない。

日本の中小企業の技術の高さを端的に示したのが、一月二十三日に打ち上げられた「まいど1号」だ。鹿児島県の種子島から飛び立ったH2Aロケットに搭載されたこの人工衛星には、大阪府東大阪市の中小企業の技術力がこもっていた。東の大田区と肩を並べる東大阪市の中小企業の数は、約六千社。雷の電波観測を目的とするこの衛星の成功は、日本のお家芸「ものつくり」の心の象徴であると産経新聞は伝える。

だがこれは、町工場の力だけではない。読売新聞によると「まいど1号」の雷センサーは、大阪大学の河崎善一郎教授が開発、中小企業が製作を担当したという。この成功に刺激され、関西の各大学と企業では、後に続く新衛星の開発に意欲を示している。新しい形の産学協同だ。

さて、中小企業の技術力が大企業を支えている例として、前述の『本の窓』誌は、長野県御代田町の「ミネベア」社を挙げる。戦争中に航空機部品メーカーにいた技術者は、米軍爆撃機B29の機体に驚くほど小さなベアリングが使われているのを知った。戦後、その技術者たちが、これに劣らぬベアリングを作ろうと決意して立ち上げたのが「ミネベア」社である。

しかし当時の日本では、極小ベアリングの需要がほとんどなく、苦しい経営が続いた。やがてビデオデッキの生産が始まり、一台に十個から十二個使われるようになった。コピー機やファクスの紙送り装置に利用され、CDやDVDの回転体にも用途が広がる。同社の現在の生産量は一ヵ月に二億個、世界のシェアの六〇%超に成長した。

かつて極小ベアリングの精度は、一〇ミクロン(百分の一ミリ)単位の争いだったが、現在はその百倍もの細かさが要求されている。生半可な技術では、その競争に勝ち抜けない。

こうした技術のほかに、中小企業の長所は、ユーザーへの思いやりが示せることだろう。先日の毎日新聞の読者投稿欄には、電気こたつを購入した岐阜県の村田敦子さんの喜びの声が寄せられていた。中小企業の製品だから、と買うのをためらったが「使ってみると台の高さが調節できるのをはじめ、細やかな心遣いがこもっているのを感じました=要旨」という。大量生産の大企業には望めないことかもしれない。

ここで思うのは、産業界の事情に、宗教界にも通じるものがあるのではないかということだ。教団の規模や募財の額をマクロの目で見るだけでなく、個々の信者への配慮を忘れてはなるまい。イエスの「二レプトンを捧げた女」への温かいまなざしの尊さを、宗教者は政治家に伝えてほしい。