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一喝しただけで学力が高まるか

2008年9月11日付 中外日報(社説)

大阪府の橋下徹知事が、「教育非常事態宣言」を発したという。「教育日本一の実現」を公約に掲げて当選したというのに、八月末発表の全国学力テストの成績は小・中学校とも、二年続いて全国最下位クラス。「このザマは何だ」の一喝が飛び出した。

都道府県の優劣を論じるわけではないが、橋下知事ならずとも、大阪府がもっと上位にあってもよいと見る向きはあるだろう。折しも任期切れを迎えた府教育委員二人は、慣例通り再任を、の府教委原案を拒否。「教育活性化をめざし、自分の選んだ人物と入れ替える」と言い切った。

大阪府内で小学校校長経験のあるA氏は「学テ成績低迷の一因は、府民の生活習慣にあるのではないか」と言う。朝食を取らずに登校する児童・生徒は全国平均で約一〇%。「確たる統計はないが、大阪府はその三倍近い率になるのではないか。腹ペコで登校して、学習意欲がわくはずはありませんよ」

基礎学力は劣っていないけれど、応用能力が弱いのでは、とも指摘する。百マス計算はできても文章題が解けない、漢字は覚えたが文章がつづれない、などの克服が必要だ、とも。

「一日の授業時間は平均六時間。私はかねて、その三分の一を基礎学習に、次の三分の一を応用能力の伸長にあて、残りの三分の一はゲーム、芸術活動、仲間づくりなどの自主活動の時間にすべきだと提唱してきました。だが現実には各校で、始業から終業までに実に二十回近くチャイムが鳴り、こま切れ学習に終わっています」

一方、関東在住の教育委員経験者・B氏は、都道府県のワクを超えて重大に受け止めなければならぬ事実があると言う。例えば今回の小学校六年生の算数の次の問題である。

「約一五〇平方センチの面積のものを次の四つから選びなさい。(1)切手一枚の面積(2)年賀はがき一枚の面積(3)算数の教科書一冊の表紙の面積(4)教室一部屋のゆかの面積」

正解は(2)だが、その正答率が全国平均でわずか一七・八%だった。平方センチ単位の計算はできても、実際の面積の広さが身についていないから、六人に一人しか正解者がないのだ。

「一トンとは実際にどれだけの重さかも、理解されていませんね。水一立方メートル、つまり千リットルの重さだと分からせる教育が行なわれていない。お風呂のバスに入る湯が二〇〇リットルないし三〇〇リットルだと教えれば、子どもは体積と重さを実感することができる。今の学校教育は専門バカが作った教科書に従って専門バカの先生が教えている、と言っても過言ではありませんよ」

A氏が「基礎学力はあっても応用能力に欠ける」という実態が、B氏の言葉に表われている。

橋下知事は「府内各市町村ごとの学テ成績を公表せよ」と要求しているが、点数の優劣を追及するだけでは済まぬものがあるのではなかろうか。

"団塊の世代"の大量退職は、教育界も例外ではない。ということは、新しい世代の教員を迎えて、教育改革を進めるチャンスでもあるわけだ。しかし、A氏は言う。「一部の学校では古い学閥意識の絡む事なかれ主義が横行していて、新任の先生のやる気を押さえ付ける恐れがあります。真の学力向上を実現するためには、まず職員室の空気を変えなければ」と。これは大阪府より上位にランクづけされた都道府県にも共通する課題であろう。

さらに橋下知事に考えてほしいのは、点数に表わすことのできない大切な教科があるということだ。道徳教育である。道徳心の向上が学習効果の向上につながることは、各方面で論じ尽くされている。「このザマは何だ」と叱りつけるだけでは、全国テストの成績はもとより、真の学力向上につながらないことを認識すべきではなかろうか。