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教育界に素人の目が必要な理由

2008年7月26日付 中外日報(社説)

戦争がまだ激しくならないころだった。筆者の家の近くに、夏は氷、冬は木炭を売る店があった。一般の家には電気冷蔵庫はなく、夏にはクーラーボックスを大きくしたような器具の中に氷を入れて、食品の腐敗を防いだものだ。店の商売を手伝う息子は中学生で、重たい氷を配達する姿をよく見かけた。

当時の中学校は、五年制だった。中学を卒業すると旧制の高等学校か専門学校に進学する。氷屋の息子は高等学校を受験したが、不合格だった。親子で高等学校へ抗議した。「この問題にこれこれの解答を書いたはずだ。不合格とは納得ができない」。高等学校側は答えた。「確かに試験の成績はよかった。しかし文部省(当時)の方針で、今年から内申書も重視して選考することになった。あなたの内申書の成績は、極端に悪い」

調べを進めた結果、出身中学校で一部の教師が、有力者の息子と氷屋の息子の成績を差し替えて内申書を作成していたことが分かった。いまなら新聞ダネになるところだが、戦時中だけに表沙汰にはならず、中学校の教師数人が依願退職しただけで収拾された。氷屋の息子は、直後に行なわれた専門学校の入試にトップ合格した。

このいきさつは、母から聞かされた。母は言った。「あの息子さんのように、いつも自信のある答案を書きなさい」と。

この昔話を思い出したのは、九州のある県の小学校教員採用をめぐる汚職事件の報道に接したからだ。県教委の一部有力者が、新採用の権限を一手に握っていたらしい。現役の小学校長や教頭が「わが子も教員になれるよう、ご配慮を」と頼んだ。その都度、百万円前後の現金や金券が動く。「多額の金券が換金されている」との噂が摘発のきっかけだそうだ。

捜査が進むにつれて「実は私も贈賄をしました」と名乗り出た人もある。かつて上司だった人も付け届けをしたという。県会議員も口を出していたとか、小学校だけでなく、中学・高校の教員採用でも金が動いていたらしい、教頭や校長への昇任もなど、いやはや乱脈の限りである。小学校教員の場合、四百数十人が受験して四十人前後が採用されるという狭き門だが、不正採用は、分かっているだけでも二年間に約四十人。実力があるのに教師になれなかった人がそれだけいたわけだ。

かつての氷屋の息子のように「これこれの解答をしたのに、私はなぜ不採用なのか」とねじ込む人がいたら、不正行為はもっと早く明るみに出ていたかもしれない。

先日の『週刊朝日』に、脚本家の内舘牧子さんが、新聞のコラムを逆批判する内容のエッセーを寄稿していた。東京地方で読まれる某紙に「東京都の教育委員六人の中には、教育学の専門家が一人もいない」のを憂慮する内容のコラムがあった。内舘さんも都教育委員の一人である。

内舘さんによると、その新聞コラムの趣旨は「東京都の教育委員は素人集団であり、こんな人たちに教育を任せていいのか」という論旨だった。

しかし東京都に限らず、多くの教育委員会は、あえて教育の専門家でない人を選んで構成している。このシステムは「レイマンコントロール」と呼ばれ、レイマン、つまり「門外漢」の立場で、専門家だけの判断に流れないようコントロールするシステムだと、内舘さんは言う。平たく言えば"専門バカ"による教育行政にならないように、ということであろう。

九州のある県の場合、地方の教育事情を知り尽くした人物が、一つの座を占め続けたために「レイマンコントロール」が働かず、汚職の温床になったのではないか。宗教界にもごく一部ながら「レイマンコントロール」を働かせたい教団が存在するのではないか。