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必要な異議申し立て

2008年6月17日付 中外日報(社説)

平成七年の宗教法人法改定で、同法二五条四項に基づき宗教法人の備付け書類の写しを所轄庁に提出することが義務づけられている。同項所定の書類を提出しなかった場合は、同法八八条五項により罰則が適用される。

二五条四項違反と判断された場合、所轄庁から各地方裁判所に過料事件通知が送付され、非訟事件手続法という法律に従って非公開の審理が行なわれる。誤解している向きもあるようだが、この過料(科料=「とが料」と区別して「あやまち料」といわれる行政上の秩序罰で、刑罰ではない)は宗教法人ではなく代表役員個人に課されるもので、過料決定は裁判所から直接、代表役員あてに通知される。言うまでもなく、非訟事件手続きの費用も被審人たる代表役員個人の負担である。

十三年前の宗教法人法改定については、改定内容が信教の自由・政教分離を保障する憲法に違反する、と宗教界から大きな批判の声が上がったことは周知の通り。改定法施行後は、違憲法に対する抗議の手段として書類提出を拒否する運動が一部で行なわれている。改定が既成事実になってしまったため、あまり注目されていないが、この抗議活動が今も継続していることは本紙でも幾度か報じてきた。

直近の二年ほどは部分的調査にとどまるが、全国の所轄庁に対する本紙の聞き取り調査では、届け出義務化以降、二五条四項違反の過料事件通知件数は毎年千件を突破していた。所轄庁サイドが全国で四千五百以上あるとみなしている不活動宗教法人に関しては、過料事件通知手続きが行なわれることはないのだから、毎年確実に千人以上の宗教法人代表役員が所轄庁と何度も提出督促のやりとりをした揚げ句、最後は裁判所の通知を受け取って過料を支払っていたわけである(差し押さえ覚悟の上で過料支払い自体を拒否している例もある)。

違憲の法律への抗議という意味がないのなら、書類を提出した方がよっぽど簡単で、面倒がないのでは、と思われるのだがどうだろう。書類提出率だけを取り出せば、文化庁が評価するように高い数字だが、もう一方の千以上という具体的な過料事件件数の意味も考えるべきである。

ただ、書類提出問題も、会社法の施行に伴う関係法律整備法で宗教法人法違反の過料が従来の「一万円以下」から「十万円以下」に引き上げられたことで、状況がやや変わってきた。一万円の過料なら代表役員個人の負担も可能だが、毎年十万円となると個人負担は厳しい。もちろん一律で上限の「十万円」になるわけではなく、担当裁判官によって決定される過料額は異なる。しかし、実際の決定額を見ると確実に従来より上がっている。違憲の法律に対する抗議の意志表明を封じる点で、過料増額は確かに効果的であると言わざるを得ない。

ところで、この問題と直接関係するわけではないが、最近、宗教法人に対する課税庁の新たな動きを危惧する声を聞くことが少なくない。櫻井圀郎東京基督教大学教授が本紙に寄せた論文でも、動物供養施設や境内の自動販売機設置場所に対する固定資産税課税が取り上げられている。

後者など、櫻井教授が指摘するように、意味するところは重大でも、実際の税額はわずかで、異議を申し立てて多額の経費や多くの時間を費やすより、税務署の言う通り払っておいた方がはるかに簡単である。しかし、そういう積み重ねが、税法上問題を有する課税の圧倒的な既成事実をつくることになりかねない。

改定宗教法人法の場合は書類提出拒否という、ある意味、厄介で負担の多い異議(憲法違反に対する)申し立てさえやりにくい状況がすでに構築されている。その環境形成には、宗教界側にもそれなりの背景がある。宗教法人に対する課税に関しては、現在進行形でその圧力が高まっている。"異議申し立て"やそれに類した行為は何にせよ面倒だが、苦労を承知の上で適切な対策を講じることが迫られているといえるだろう。