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ハコモノ廃止と財政再建の是非

2008年5月1日付 中外日報(社説)

広島とは不思議な土地柄で、戦前すでに六大都市に次ぐ人口がありながら、公会堂がなかった。いや、公会堂と名付ける小さな建物はあったのだが、畳敷きの木造平屋で、農村の寄り合い場のような構造だった。東京・日比谷、大阪・中之島のような施設とは比ぶべくもない。浄土真宗の盛んな地だから、お寺が集会場になっていたのか。

原爆で全市が焼かれた後の、昭和二十年代の終わりになって、平和公園の一角に、やっと近代的な市立の公会堂が建てられた。こけら落としには広島出身の女優・月丘夢路や歌手・灰田勝彦らが招かれた。昭和三十年の第一回原水爆禁止世界大会も、この公会堂で開かれた。それ以後、全国規模の大きな催しが、たびたび広島で開かれるようになった。

今から十年前、久しぶりに広島を訪れて、完成四十周年を迎えた「原爆の子の像」建設の秘話を取材したことがある。その時、公会堂はすでに姿を消し、やや小ぶりな国際会議場に建て替えられていた。筆者は、中学校の同級生だった市政通の友人に尋ねた。「公会堂がないと、大きな行事が開けなくて困るのではないか」と。

友人は答えた。「心配はいらないよ。広島には各省庁の息のかかった"会館"と呼ぶハコモノが幾つもあるから、場所に困ることはない。むしろハコモノはだぶつき気味だから、各省庁とも持て余しているのではないか。恐らく広島市が、公会堂を再び建てることはないだろう」。筆者が「ハコモノ」という言葉を聞いたのは、それが最初だったと記憶する。

ひところは、いかに魅力的なハコモノを作るかが、知事や市長の腕の見せどころだった。使い勝手よりデザインの奇抜さを狙った建物もあった。県と市が同じ用途の施設づくりを競い合った例も多い。

スポーツ施設も一種のハコモノであるが、サッカーのワールドカップのゲームを誘致するため、無理して建てたスタジアムが、宝の持ちぐされになっているところもある。

折も折、大阪府の橋下徹知事が、借金五兆円という赤字財政から脱却するために、ハコモノや外郭団体の廃止・削減に取り組んでいる。大相撲の春場所開催でおなじみの府立体育会館も数年後には廃止するというのだから、思い切ったリストラである。警察官の定員の削減も話題に上っているほどだ。

府の幹部や労組には「夢がなくなる」「府民の生活に響く」などの意見もあるが「民間会社ならとっくに倒産している。なりふりかまってはいられない」が知事の立場だ。荒療治には違いないが、役所経験のない若い知事だからこそ、このような発想が生まれるのだろう。

かつて筆者が在職した会社が、数百億の赤字を出したことがある。本業に関係のない資産はすべて処分することにした。全国に保有していた保養所やスポーツ施設など、ハコモノすべてを手放して再建に努めた。十年余りで赤字は解消し、新しい社屋を新築するまでに回復した。その点では、橋下知事が思い切りよく財政再建を進める姿勢に共通するものがある。だが府財政の切り詰め策は府内市町村に影響するところが大きいとの批判が強い。

これに重ねて思うのは、仏教界の将来像である。人口減で、檀家数は減る。しかも葬祭の場での寺離れが進行しつつある。だが、それについて危機感を表明している宗派はまだ少ない。

さらに、宗派や個々の寺院の施設には、段差があったり、いす席でないため、せっかく建てた会館が高齢の檀信徒の利用をはばんでいる例もある。欧州では、中世に建てられた教会に今、車いすの障害者が自力で出入りする姿を見ることが多いのに。宗教の場をハコモノ化しないための配慮が望まれるところだ。