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違憲法への抗議と"過料増額"の影響

2008年4月8日付 中外日報(社説)

三月の中旬になって、京都府内の宗教法人に相次いで「五万円」の過料決定通知が京都地方裁判所から届いた。宗教法人法第二五条4に定める書類を所轄庁に提出しなかったことを理由とするもので、これまで「一万円」が一般的だった書類提出拒否の宗教法人(の代表役員)に対する過料額が一挙に跳ね上がった。恐らく同様の事例は全国で起きているであろう。

ただし、これは予期されていたことであった。

平成十七年七月、新「会社法」と同時に「関係法律の整備に関する法律」も公布されたが、その中に過料上限額の改定が含まれていた。これによって、従来一~九万円を過料の上限としていた諸法令の罰則規定はすべて、「十万円以下」を下限に引き上げられた。宗教法人法に関しては、第八八条の「一万円以下」が「十万円以下」と改められている。

それまで、書類の提出を拒否した法人に対する過料額は三千円や五千円などというケースもあったが、大半は上限の一万円だった。そのため、過料上限に関する規定の改定で、裁判所による過料決定の金額が引き上げられることも確実とみられていた。実際の過料「額」と適用「時期」が問題だったのである。

京都府内でも、担当裁判官によって過料決定額のばらつきがあり、上限の「十万円」という例も聞く。ある仏教系宗教法人の代表役員に対する五万円の過料決定通知を見ると、「平成十七年の会計年度」の書類未提出が違反理由とされている。

ちなみに、京都地裁の当該決定で注目されるのは、宗教法人法第二五条が挙げている「役員名簿」「財産目録」「収支計算書」「賃借対照表」「境内建物関係書類」「事業に関する書類」のうち、違反理由として示されているのが「役員名簿」「財産目録」だけであるという点だ。これは担当裁判官によって判断が異なるのかもしれないが、「収支計算書」以下の提出拒否は違反理由になっていないのである。

ところで、上に「予期されていた」と述べたが、ほとんどの宗教法人代表役員にとっては、関心の外にあった問題であろう。

過料額の引き上げの動きを注視していたのは、宗教法人法「改正」に反対し、改定宗教法人法施行後も信教の自由、政教分離の観点から改定の違憲性に抵抗してきた人々だ。

書類提出義務化後、毎年千件を超えていた書類非提出の法人に対する過料適用事案(不活動法人は手続き対象外)のうち、どの程度がこうした自覚的抵抗であるかは分からない。しかし、例えば、京都仏教会は違憲性を指摘した宗教法人法改定個所のうち、書類提出義務に焦点を絞って批判してきた。

また、日本基督教団の京都教区は提出義務化初年度から、教区所属教会の対応を毎年、アンケート調査している。それを見ると、改定に反対する立場から提出を「拒否」した法人の数は平成九年度から十八年度にかけて回答数十五のうち六から十の間で推移している。

京都仏教会や日基教団京都教区のように宗教法人法改定の違憲性に抗議する立場から見て、過料額の一挙引き上げは、違憲立法への抗議を「運動」として成り立たせることを危うくする問題にほかならない。

事実、過料改定が公布された翌年の京都教区の「提出拒否」事例は九件から六件にダウンしている。いくつかの府県の宗教法人担当に取材しても、やはり非提出法人数(過料事件通知件数)はここ一~二年の間に確実に減少している。本紙がかつて指摘した過料十倍の「威嚇効果」は確かに認められる、と言わざるを得ない。

違憲性を告発するなら、法廷で争えばよいではないか、という反論も出るだろう。だが、行政上の秩序罰とされる「過料」事件は非訟事件手続法で処理される。周知の通り、非訟事件の手続きは対審構造をとらない。つまり、口頭弁論もなく、不服を申し立てても、抗告の書類が非公開の場で審理されるだけなのである。

宗教法人法改定の違憲性を法的に問う試みはこれまでにもあったが、明治時代に制定されたこの非訟事件手続法によってことごとく阻まれてきた。

さらに、ここに来て、過料増額の"威嚇"が具体的な効果を示すとすると、宗教法人法改定の違憲性を告発する声自体、徐々に弱まってゆくことになるのだろうか。オウム真理教事件を契機に強行された「改正」の経緯を知る者にとって、この状況には「悪法も法である」という議論は別にして、深く考え込まざるを得ないものがある。

一部では、実効性のある法的な手続きの可能性を検討する動きもあるようだが、いずれにせよ、改定宗教法人法の違憲性の問題は未解決であることだけは強調しておきたい。