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禁煙して浮いた月五千円の援助

2007年11月3日付 中外日報(社説)

"仏像を彫る演劇人"として知られる俳優の滝田栄さんは先ごろ、ベトナムを訪問した。往復の航空便は、エコノミーだった。なぜベトナムを訪れたかを十月中旬、京都で開かれた講演会で報告した。

滝田さんは十六年前から「プラン・ジャパン」=法人名(財)日本フォスター・プラン協会=の一員として、発展途上国の人々の自立活動を支援してきた。プラン・ジャパンは、スポンサーと呼ばれる会員が毎月三千円、四千円、五千円のいずれかの額を拠出し、その資金でアジア、アフリカ、中南米の途上国、四十六ヵ国に送っている。

滝田さんが、思うところあって禁煙したのが十六年前だった。一ヵ月約五千円のたばこ代が浮いた。それを有効に使うため、プラン・ジャパンに拠出することにした。

支援といっても、お金や物資をばらまくことはしない。一時的な効果で終わるし、相手国の人々に依頼心を起こさせる副作用もある。だからプラン・ジャパンは国際的なネットワークで、自立心や向上心に富む地域を選ぶ。相手国の受け入れスタッフを通じて、農業の生産性を高め、医療・衛生施設を整備し、教育施設を建てるなど、長期的な視点に立って、生活環境の向上への手助けをする仕組みである。その事情は平成十六年一月二十日付の本欄で紹介した。

法人名の「フォスター」には「育てる・奨励する」などの意味が込められている。現在の理事長・会長は元アジア開発銀行総裁の垂水公正氏である。同じような組織は英、米、仏、独、韓国など十六ヵ国にある。英国人によってこの活動が始まってから、今年で七十周年になる。

この活動の中でユニークなのは、スポンサーが援助先の地域の子どもと文通することだ。日本語で書いた手紙が、国際的なボランティア協力によって、相手国の言葉に翻訳して送り届けられる。先方の子どもの手紙も、日本語に訳されたものが届く。今の時代には珍しい、牧歌的なペン・パル関係である。

さて、十六年間ベトナム支援にかかわってきた滝田さんは昨年十月、プラン・ジャパンの評議員に選ばれた。正副理事長以下理事、監事、評議員などの役員は全員が無給である。

評議員就任を機会に滝田さんがベトナムを訪れたのは、プラン・ジャパンの資金がどう活用されているかを確かめるためだった。援助が仕上げの段階に達した地域と、これから援助が始まる地域の"二つの顔"を見ることができた。

十年間、プランの援助を受けてきた北部の山村「タン・ソイ」地区では、小学生の就学率が一〇〇%になり、野菜の収穫量が増え、住民の衛生意識も向上していた。滝田さんはここで文通相手、十六歳のボー君と対面することができた。ボー君は父を失い、離れた町で木工技術を学んでいると言い、滝田さんの手を握りながら「ベトナム一の家具職人になります」と力強く約束した。

一方、これから支援を受け入れるという「タム・デイ」地区は、対照的な姿だった。貧困、出稼ぎ、就学率の低下、病気などに苦しんでいた。トイレはなく、水くみは二キロ先の井戸まで行く。六キロの道を歩いて登校しても、貧しさのため差別され、なぐられることもあるそうだ。地区側には、プランがすぐにでも食料援助をしてくれるのではないかとの期待もあった。

しかしベトナム側の受け入れスタッフは「一時的な援助でなく、継続可能な児童教育、保健衛生、農業生産性の向上などに、住民自身がねばり強く取り組むようカジ取りしなければなりません」と強調した。

NHKの大河ドラマで徳川家康の役づくりをするため、まず坐禅をしたという滝田さん。その境地を、タム・デイ地区の人々にも学んでほしいものだ。