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精神性衰弱の危機

2007年11月1日付 中外日報(社説)

二十一世紀になってから世相の混迷はますます深まるばかりで、仏教で説く末法史観の通りだと言いたくなる。

(1)核戦争の潜在的な可能性(2)地球の温暖化(3)科学技術の想像を絶する急速な進展と物質文明の異常な膨張(4)人口爆発(5)人類の精神性の衰弱――が今日の世界の現実なのである。現在のところ、これらの問題への対応は全く対症療法的であって、蟷螂の斧のようにさえ思われる。

第二次世界大戦は広島、長崎の米軍による原爆投下によって終結した。その後、一九五五年にラッセル、アインシュタイン、湯川秀樹ら十一人の科学者が核戦争の危機の可能性に、科学者は社会的責任を果たさなければならないと「ラッセル・アインシュタイン宣言」を発表した。

この宣言に基づいて一九五七年、カナダのパグウォッシュで開催された世界の科学者の国際会議で核戦争の危機が警告され、世界各地でこの会議が開催されるようになった。

米ソの対立による冷戦はソ連の崩壊によってその危機が遠のき、小康状態になった。しかしながら、その後、核軍縮は進まず、逆に新たな核兵器保有国が現われているのが現状である。世界の科学者も「ラッセル・アインシュタイン宣言」と「パグウォッシュ国際会議」の議決を再確認すべきではないか。第三次世界大戦の勃発は人類の滅亡を意味するのである。

わが国も原則的には憲法九条を順守してきたが、自衛隊に増強されている軍備力は世界第四位である。核兵器廃絶、軍縮の声が遠のいてきている昨今の世相は憲法九条改定の問題にからめて、どうなっていくのだろうか。今、わが国は歴史の大きな岐路に立っていることを強く自覚しなければならない。

一方、地球温暖化の危機はようやく実感されるようになった。イギリスのホーキング博士は、人類の寿命はあと一千年であると予告した。だが、温暖化の加速のため、最近は九十年説が提示されたりしているありさまである。人類はその共同責任をどのように果たしてゆくべきなのか。

科学技術の進展は想像を絶するほどだが、物質文明の膨張を促すだけのものであるようだ。地球環境の危機的状況に対して、科学技術の主力を注いでもらいたいものである。

人口問題も極めて複雑である。わが国をはじめ、先進諸国では少子化問題が社会的に極めて深刻だ。しかし、地球的なスコープからすれば発展途上国の多くは人口爆発の道をたどっている。

地球の人口許容量は二十億人だという説がある。ところが、地球人口は七十億になろうとしている。地球温暖化の現象も、科学技術発達のマイナス面の加速化と人口増加との相乗効果によってもたらされているのであるが、これらに対処する叡智を人類はまだ持ち得ていない。

それどころか、人類の精神性はむしろ衰弱しつつあるのではないだろうか。筆者は科学技術文明の発達と精神性の衰弱が正比例しているとみている。科学技術文明の発達には、正と負の面が存在する。その大きな陥穽にさめた意識で対処しなければならない。

肥大化する物質文明をただ喜んでばかりはいられない。端的にいえば、それは人類の精神性を衰弱させていく。その兆候として、清貧という言葉は今や内容の伴わない死語と化している。

精神性の劣化は文化の劣化を招く。これは具体的には倫理道徳の崩壊と宗教意識の消滅という形をとって現われる。アインシュタインが「宗教なき科学教育は悪魔の教育である」と言ったのは、よく知られている。言うまでもなく、かつて科学者の指導によって原子爆弾の製造に成功したことへの反省が内含されているが、今われわれはあらためてその意味をかみしめるべき時期に来ている。